税理士くららの『あれま⁉️』日誌

プロ仕様の税金物語。税理士くららのファンタジーワールドへようこそ。 税務のプロも悩むニッチな事例を集めた実務に役立つショートストーリーです。

★新人税理士が税務調査に立会います★

26.調査官が共通用の課税仕入れにならないと言う

今日の会社は新車ディーラーです。

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「おはようございます」

ニコヤカ女子社員のお迎えです。

お店の駐車場に入るといつも飛んできます。

さすが顧客満足度地域ナンバー1のお店ですね。

でも、そろそろ覚えてね、私のこと。

お客じゃなくて、税理士ですよ。

 

おや、会長さん、お久しぶりです。

「くらら先生、ミラクルオープンドアのこの車どうですか。

スライドドアだし、お子さんの乗り降りもスムーズですよ」

 

えっと、私、子持ちじゃありません。

というよりまだ一人ですけど。

 

 調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

落語家の大師匠のような雰囲気の調査官。

たしかそんな年ではないはずですが。

会長と話しが弾んでる。

 

でも、世間話が長すぎじゃない。

飽きちゃいました。

そろそろ仕事に移らないと叱られない?

・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「消費税の誤りです。

共通用の課税仕入れにならないと指摘されました。

経営安定のために、空き地を利用して賃貸用の2階建て建物を建設しまた。

1階は店舗用、2階は住宅用で、床面積は各階とも同じです。

 

調査官の指摘はこうです。

課税仕入れについては、課税売上、非課税売上、共通用に区分しなければならないが、

この建物は課税売上と非課税売上に対応するものとに区分できるものです。

合理的に区分できるものは、共通用にして計算することは認められません

 

確かに1階と2階は、床面積が同じで建設単価もほぼ同額ですから、合理的に区分することは可能です。

課税売上割合90%の共通用で計算していたので、結果として課税仕入れは過大になりました。

私のミスです」

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「店舗用と住宅用の建物であれば、課税売上と非課税売上の両方に対応するから、共通用の課税仕入れとなりますね。

でも区分できるならば、課税と非課税に区分して計算しなさいという指摘かな?」 

 

「共通用の課税仕入れについては、合理的に区分できるのであれば、課税と非課税に要するものとに区分するという通達があるとのことでした」

 

「通達の趣旨は、合理的な基準によって区分していれば、その処理が認められるということであって、この処理が強制されているわけではありません。

つまり共通用のものに該当する課税仕入れを、更に区分して課税と非課税にする必要はないということです。

 

調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

25.調査官がソフトクリームを好きだって言う

今日の調査立会いは洋菓子店。

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ソフトクリームが人気です。

 

タカトシのテレビに出たせいで、土日はソフトクリームで行列なの」

見ましたよ、タカトシランドですね。

ママと呼ばれるこの店のオーナー、まもなく喜寿を迎えるお年のはず。

お元気ですけど、何だかお疲れのご様子。

 

「アポなし取材って、本当に突然来るのね。びっくりしちゃったわ」

・・・そうなんですか。

 

人気のソフトクリームは、なめらかミルクのたっぷり系。でも後味はさっぱり。

それでお値段は何と200円という低価格。

売れますよね、当然。

 

 調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

女性調査官です。私よりチョット年上かな。

「ソフトクリームが大好きで、私、先週ここで並んで食べました」

ママがうれしそうですね。

でもそれって内偵?

 

おや、ママがソフトクリームを勧めてる。

調査官は必死に断ってるけどね。

食べちゃうといろいろあるんでしょ。きっと。

でもせっかくだから、どうぞ食べてね。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「受贈益の計上もれです。

冷蔵ショーケースをメーカーから無償でもらってましたが、そのことを記帳していませんでした。

 

調査官の指摘はこうです。

販売業者がメーカーから冷蔵庫等の資産を無償で取得した場合には、そのメーカーにおける取得価額を受贈益として収益に計上しなければなりません。

メーカー名が入ったこの冷蔵ショーケースは、広告宣伝用資産になるので取得価額の3分の2の金額で*1受増益を計算することになります

新しいショーケースはありましたが、十分な確認をしていませんでした。

私のミスです」

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「無償でもらった広告宣伝用資産でも、その金額なら収益として計上しなければならないね」 

 

「確かにそうでした。

・・・でも、事業の用に供していることは間違いないので、減価償却費は認めてもらいました。

その結果、増差所得は減りました」

 

「ほー、認めてくれた。うーん、でも、それ、ちょっと違うんだなー。

7の5の1だね」

はー・・・?

「基本通達7-5-1です。

これを知ってるかで、だいたいわかるんです。詳しいかどうか」

ふー・・・そんなもんですか。

 

「贈与により取得した資産を全く記帳していない今回のような場合には、償却費とした金額がないので、減価償却はできないんだね。

これが取得価額を税務上の低い金額で計上していた場合なら、その税務上の満たない金額を減価償却したものとみなして計算できるんだけどね。

要するに資産が簿外ではダメだということ。

結果として今回は受贈益の全額が増差になるということです」

 「・・・・」

 「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

*1:金額が30万円以下であるときは、受贈益は計上しなくてよい。

24.調査官が簡易課税を否認するって言う

今日の調査立会いは、韓国コスメを販売する会社。

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ポーラレディだった社長。

さすが真っ白で透明感のあるツヤ肌のひとですね。

 

美白コンサルタントとしても活躍中で、文化教室やイベントにも引っ張りだこです。

 

テーマは、

「美肌は努力で作るもの」だって。

うーむ。

 

実は社長と会うのは今日が2回目。

うちの所長が、急きょ調査立会いの依頼を受けたのです。

何か事情があるんですね。

 

ということで、

法人成りしたばかりのこの会社、ほんとはよく知らないのです。

こういうのは初めての経験。

責任があるような、ないような。

 

でもしっかり対応しないとね。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

丸メガネが似合う美白の調査官。30代前半くらいかな。

こういう業種の担当はやっぱり女性だよね。

おじさんじゃ、ちょっと無理。

 

調査官はポーラの「ホワイトショット」でケアしてるって。

 

社長が嬉しそう。

日々のお肌ケアは当たり前で、ほんとの透明感は内から作るんだって。

それって食生活のことなの?ビタミンとか。

私もセミナー受けようかなー。

 

おや、社長が調査官に化粧法の指導まで始めてる。

もうそのへんでいいんじゃない?

オルチャン社員が、後ろで困った顔して見てますよ。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「消費税の簡易課税の適用はできないとのことです。

 

調査官の指摘はこうです。

 貴社は、特定期間*1の課税売上高を年換算すると5000万円超となり、簡易課税の適用はできません。

よって、本則課税で計算することから消費税の追徴税額が発生します

 

そうでしょうか。

簡易課税が適用できるかどうかは、特定期間の課税売上高を年換算して判定するのでしょうか?」

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「年換算の必要はありません。

というより、簡易課税の適用に、特定期間の課税売上高は全く関係ない。

特定期間の課税売上高は、あくまで納税義務の判定にのみ用いるものであって、簡易課税の適用判定には全く関係ありません。

 

簡易課税が適用できるのは、基準期間の課税売上高が5000万円以下の場合ですが、

当社のような新設法人は基準期間がないので、基準期間における課税売上高は0円ということになります。

ですから、簡易課税の適用に何の問題もありません」

 「・・・・」

 「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

 

*1:『特定期間』とは、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう。

 特定期間における課税売上高が1000万円を超えるときは、納税義務は免除されない。

23.調査官が担保のある債権はダメだって言う

今日の調査立会いは住宅設備機器の卸会社。

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創業100年の老舗です。

 

「うちの商売も年々難しくなってきてね。今回が私の最後の税務調査になるかもしれない」

いきなり何でしょう?

 

「実はお誘いがあってね。悪い話ではないと思うんだけど、どうしたもんかね」

まさか身売り? M&Aということですか?

 

好況とは言えないけど、営業利益は確保しています。

何より無借金経営の安定企業ですよね。

 

あれっ、事務室のウオーターサーバーが

・・・無くなっている。

どこかで聞いたことがあります。

こういう小さなことが、企業身売りの前兆なんだって。

うーむ。

 

 調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

年配の調査官です、

白髪だからか・・・おじいさんに見えます。

 

そうですか、再雇用ですか。ということは定年後の人だから60歳を超えてる。

大変ですね。私はそこまで働けるかな?

いや、人生100年時代なんだから、当然現役だよねー。

 

でも、この人、覇気がなさすぎじゃない?

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「貸倒損失の否認です。

 

調査官の指摘はこうです。

税務上の貸倒損失については、担保物がある場合はそれを処分した後でなければ計上できません。

貴社は相手方が所有する土地に抵当権を設定していますので、たとえ劣後であったとしてもその担保物が処分されるまでは貸倒れの処理はできません

担保物があることを確認していませんでした。

私のミスです」

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「税務上の貸倒れの処理については、かなり厳しい取扱いになってるね。

原則的には、担保物の処分後でなければ、全額回収不能かどうかという判断はできないから、処分するまでは貸倒れの処理はできないだろうね」

「それは・・・理解してます」 

 

「いま原則的にはと言ったのは、状況によっては取り扱いが異なるということです。

 指摘された売掛債権の資料を見せてください」

 

・・・数分後

「この貸倒れの処理は問題ないね。

たしかに抵当権の設定はあるけど、抵当権順位は第5順位で、この土地が処分されたとしても、当社に配当の見込みは全くないね。

相手先はほかに資産もないし、支払い能力もないから全額を回収できないのは明らかですね」

 

「もともと設定は名目的なものだったようです。評価額が低いうえに優先債権が多いですから」

 

「少し前までは、担保物を処分しなければ貸倒れの処理はダメという取扱いだったけど、今は弾力的に扱うこととされているんだ。

国税庁のホームページにも*1質疑応答事例として載っているよ。

だから、この貸倒損失は全く問題ないということです」

 「・・・・」

 「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

*1:担保物の適正な評価額からみて、その劣後抵当権が名目的なものであり、実質的に全く担保されていないことが明らかである場合には、担保物はないものと取り扱って差し支えありません。

22.調査官が課税売上高少ないって言う

今日の調査立会いは花屋さん。

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和モダンなフラワーデザインが人気のお店です。

 

「ネットの売上が好調だけど、いろいろ手数料とかあるからね」

オーナーの愛里さん、今日は浮かない顔してるけど、基本ポジティブな人です。

 

小さな頃からの夢は、お花屋さんになること。

「花屋ってね・・・結構キビシイの。

仕入れがあるので朝は早いし、立ち仕事が普通で、お店の中はとっても寒いし。

だから私はデザインの勉強をして、どちらかというと裏方の仕事が中心だったの」

そうだったんですか。

 

「でも、夢だったから、お店を始めちゃった。

今は、どうしたらお客様にお花を買っていただけるか。

これだけを毎日考えています。大変でしょ」

うーむ。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

落ち着いた雰囲気の調査官です。

徴収部門からの交流で、

「これまて滞納整理の経験しかありません」だって。

 

そういえば、うちの所長も現職のとき、徴収の経験があると言ってたね。

いろいろ経験したほうが絶対いいよね。

頑張ってね、調査官。

もちろん今回ではなく、別の調査でね・・・うふふ。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「消費税簡易課税の課税売上高が少なく計算されていると言われました。

 

調査官の指摘はこうです。

ネットで販売した商品売上高が手数料控除後の金額で計上されていますが、消費税の課税売上高は控除前の金額となります。

控除後の金額で計上しても、法人税の損益には影響はありませんし、消費税の計算も本則課税であれば問題はありません。

しかし、貴社のような簡易課税の場合は、課税売上高が少なく計上されることになるので、消費税の追徴税額が生じます

 

課税売上高の考え方を指導していませんでした。

私のミスです」

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「売上から費用を相殺して課税売上高としていれば、簡易課税の計算は誤りだね」

「それは・・・当然です」 

 

「ところで、ここは花の小売のほかにスタジオやイベントのデザインもやってたね。フラワー教室もある?

仕入税額計算は特例計算*1を使っているのかな?」

 

「いえ、第2種事業が70%で第5種事業が30%のため75%ルールは使えませんので、原則計算で申告しています」

 

「消費税の計算明細書と今回の売上もれの資料を見せてください」

 

・・・数分後

「これは追徴ではなく還付になるね」

「・・・?」

 

「今回指摘された売上もれを加算したら第2種事業は75%以上となるから、特例計算が使えるね。

この特例計算には届出は必要なく、継続要件もないからね。

だから結果として、課税売上高が増えても仕入控除税額がより大きく増えるので、申告した税額より少なくなるということだね」

 「・・・・」

「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

*1:特例計算~2種類以上の事業を営む事業者で、1種類の事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%を占める場合には、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに対して適用することができる。(通称『75%ルール』)

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