税理士くららの『あれま⁉️』日誌

プロ仕様の税金物語。税理士くららのファンタジーワールドへようこそ。 税務のプロも悩むニッチな事例を集めた実務に役立つショートストーリーです。

★新人税理士が税務調査に立会います★

16.調査官が寄附金を否認するって言う

今日の調査立会いは、新興のハウスメーカーです。

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お値段が少し高いので、ちょっとリッチなお客さんが中心です。

シャープな外観に大きな窓、デザインが売りだけど、この層を微妙にクスぐる手法が巧みですね。

たとえば、完成見学会は紹介客のみに限定したりしてね。

 

ショールームの家具をカンディハウスで揃えるところも、いいセンいってるなーと思いますね。

少し高いけど、手が出ないわけではない。

そのセンスが、この客層に受けるんだろうなー。

 

社員はみんな、接客業のような感じのひとばかりだし、ガテン系のようなひといないもの。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

特官チームの4人です。

研修中の新人もいるそうだけど、ちょっと多くない?

経理の人も戸惑ってる。何かあったのかと不安そう。

 

「人数が多いので、効率よく調査を行なって、早く終わりたいと考えています」

特官も気を使ってくれてるんですね。

 

最近、新人が多いと聞いてるけど、同行研修も大変だよね。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「寄附金の否認です。

 

調査官の指摘はこうです。

『  当社が支払っている、関係法人であるB社の事務所家賃は、当社が負担すべき費用ではないので、B社への寄附金となる。

当社とB社は、完全支配関係がある法人なので、その全額が損金不算入となる

 

B社は立ち上げたばかりの法人なので、当社が資金面を含めて支援していたのは事実です。

 

適切な税務処理の指導ができていませんでした。

私のミスです」

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「他の法人の費用を負担していたとすれば、特別な理由がない限り、寄附金と認定されてもやむを得ません。

100%グループ内の寄附金については、特別な取扱いもありますね。

グループの出資関係図を見せて下さい」

 

・・・数分後

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「当社とB社は、オーナー個人が100%の株式を所有しているんだね。

ということは、個人による完全支配関係なので、寄附金についてはグループ法人税制の適用はないね。

グループ法人税制が適用になるのは、法人による完全支配関係がある場合だけなんだ。

つまりは、全額損金不算入ではなく、通常の損金算入限度額の計算を行うことになるんだよ。

所得が大きいので、限度額計算しても超過額はでないから、増差はないね」

 「・・・・」

 「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

15.調査官が貸倒損失を否認するって言う

今日の調査立会いは地方の信用金庫。

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この信金には、素晴らしい理事長秘書さんがいます。

段取りや手配は完璧で、どんなことでも笑顔で瞬時に対応してくれます。

「すぐにご用意いたします」

「整えてございます」

 

もちろん周りへの細かい気遣いも忘れません。

 

飛びっきりの美人ではないけれど、気品があって、輝くような笑顔が素敵なアラフォーの女性です。

 

本物の秘書さんって、ほんとカッコいいですね。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

国税局調査部の二人。

善人そうな主査と、元気な調査官。

 

さっき、秘書さんと一緒にお迎えしたんだけど、主査はどうも秘書さんが気になるみたいで...。

秘書さんの笑顔に魅了されちゃったのかなー。

なんか和やかな雰囲気でいい感じ。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「貸倒損失の否認です。

 

調査官の指摘はこうです。

  回収不能として貸倒損失に計上した金銭債権のうち、一部回収の見込みがあるにもかかわらず事実を誤認したものや、全額を回収不能と判断するには根拠がないものがある。

回収不能の貸倒れとするためには、債権の全額が回収不能でなければ、貸倒損失は認められない

 

経理部長によれば、

会計と税務の貸倒損失計上の時期には大きな差異があり、その判断が難しいのは経営陣も理解しています。

ただ、否認金額が多額になると、理事会での説明が難しく責任問題になるとのことです。

 

部長の抗弁でかなり認めてもらいましたが、それでも結構な額。

 

貸倒損失の判断は、その金融機関独自の特殊事情があるので、信金の判断に任せざるを得ませんが、税理士としてもっと的確なアドバイスをすべきでした。

私のミスです」

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法人税法で認める貸倒損失は、かなり厳しく限定的で、会計上の判断とは相当異なります。

ただ、事実認定の問題なので、信金側が納得出来る指摘であれば、それはやむを得ないでしょう。

 

指摘された貸倒損失の明細を見せて下さい」

 

・・・数分後

「借り手が法的整理に入ってたり、手形交換所の取引停止となっている債権ばかりだね。

こういう債権は、最終的には、ほとんどが回収出来ないのが実態なんだけどね。

 

それは別として、このような債権の貸倒損失は、否認されても個別評価金銭債権の貸倒引当金の繰入れとして、50%の損金算入が認められるんだよ。

だから、否認額は半分になるね。

調査官、そう言ってなかった?」

 

「あれま⁉️

 

  

14.調査官が課税売上割合違うって言う

今日の調査立会いは中古車販売の会社。

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 新車ディーラーの営業マンだった社長。

腰が低く、笑顔がステキな40代....。

でも昔はヤンキーやってたそうです。

今の姿からは想像つかないけど、業界にはこういう人結構いるみたい。

 

大事なことは、いかにお客さんのニーズにあった車を揃えられるか、なんだって。

今も、社長自らが現車オークションに行って、仕入れしている。

 

「どうです、これカッコ良くない? 格安にしときますよ」

私に勧めるこの派手な色のベンツ、私に似合うわけない。

だいたい、これは売れ残りでしょ。

かなり前から在庫になってるの知ってますから。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

気弱そうな調査官。店舗から一番遠いスペースに車を止めたものね。

シルバーのニッサンキューブ。

車も地味だわー。

あ、これ役所の車だよね。たぶん。

 

おや、

早速、調査開始ですか。元帳をめくってる。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「消費税の課税売上割合の計算誤りです。

 

調査官の指摘はこうです。

  中古車を販売したさいの、自動車リサイクル預託金*1譲渡は非課税売上であり、消費税の課税売上割合の計算上、分母にのみ入れて計算しなければならない。

その結果、課税売上割合は95%を下回るので課税仕入れ金額の全額控除はできない

 

中古車販売では必ずリサイクル預託金の譲渡が伴います。

これが非課税取引になるとは考えていなかったので、課税売上割合の計算に入れてませんでした。

私のミスです」

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「・・・そんなに違いがでる?、

計算書を見せて下さい」

 

・・・数分後

「リサイクル預託金の100%を分母に入れるという指摘なの?」

 

「そうです。その計算では、確実に課税売上割合は95%を下回ります」

 

「その解釈は違ってるね。リサイクル預託金の譲渡は、有価証券の譲渡と同じで例外規定があるんだよ。

課税売上割合の計算上、譲渡額の全額ではなく、5%のみ課税売上割合の分母に入れることになってるんだね。

 

リサイクル預託金は金銭債権になるけど、その譲渡は、平成26年の改正で、5%となったんだよ。

再計算しても課税売上割合は95%以上だから、課税仕入は全額控除して問題ないよ」

「・・・・」

「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

*1:車を廃棄処分する際に必要となる費用を、新車購入時にあらかじめ支払うことが法で定められており、この費用をリサイクル預託金という。

13.調査官が創業記念品を否認するって言う

今日の調査立会いは日本酒の造り酒屋。

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創業100年の老舗ですが、何度か廃業の危機がありました。

今の社長は杜氏でもある、先代の一人娘の莉乃さん。

あの指原と同じ名前で、

「全然似てないわよ」

って言うけど、ゼッタイ意識してますね。

メイクのせい?やっぱりなんか似てる。

年齢はかなり上だけどね。

 

酒蔵のみんなで踊った『恋チュン』、ちょっと前にネットで見たけど、なかなかいい感じです。

 

先日の新酒鑑評会での金賞、おめでとうございます。

調査が終わったら、これで一杯やるんだってね。

楽しく飲めるように、私も立会い頑張ります。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

なんかオドオドした感じの、真面目そうな調査官。

申し訳ないけど、地味なルックスで30は超えて見えます。

でも、役職は事務官だから若いはず。

調査経験そんなにないんでしょう?

 

最近多いよね、若い調査官。

所長が言うには、ベテランがたくさん退職して今は過渡期で、指導する統括官も大変なんだって。

 

私の立場では、怖い人より歓迎ですが。

でも本当は、厳しくないと、経営者が税理士の言うことを聞かなくなるので、それも困るんですけどね。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「社員に配った創業記念品の取得費を、消費税の課税仕入れにしていました。

 

調査官の指摘はこうです。

当社が創業記念に際し、その記念として社員に支給したガラス食器はその価格が1万円を超える高価なものなので、社員への現物給付として、給与所得になる。

給与は消費税では不課税取引なので、当然課税仕入れはできない

 

金額からみて課税しない経済的利益とはならないので、社員への給与として源泉の対象としていましたが、消費税については、特別な指示をしていませんでした。

私のミスです」

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「当社が、創業100周年を迎えて記念式典を行ったのは知ってます。

実は、私も式典に呼ばれてましたので。

 

社員に配った創業記念品というのは何?」

 

江戸切子の冷酒杯でした。蔵のマークが入った立派なものです。

現物給与として給与課税にしてはいたのですが・・・」

 

「大丈夫。くらら先生の処理で何も問題ないね。

 

仕入控除の対象かどうかは、

その支給が給与となるかとは関係がなくて、

その支給した資産の取得が、消費税法上の課税仕入れになるかどうかで判定することになる。

 

今回の場合、法人の事業としての資産の購入であるから、仮に現物給与として源泉の対象となった場合においても、仕入控除の対象になるんだよ」

「・・・・」

「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

12.調査官が書類保存にケチつける

今日の調査立会いは電気工事の会社。

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「もう忙しくて、忙しくて、大変だ!」

これ社長の口ぐせ。

現場の人だけど、今は伝票整理も自らやってます。

担当していた奥さんと、去年離婚しちゃったからしょうがないよね。

普段からMacBook使って機械に慣れてるから、会計も大丈夫ですね。

 

社長の自慢は、あのスティーブ・ジョブズと生年月日が全く一緒ということ。だから完全なアップル好きなんだって。

もう年金をもらう年代なのに、若いよね。

 

この前、六本木ヒルズのスタバに行ったら、Macだらけでした。

そこで何してるの?

社長に聞いたら、

「皆んな真剣に仕事してるんだよ」

だって。

 

調査官が(来た!)

 

「おはようございます。

今日はよろしくお願いします」

 

おや、まー。

高校生みたいな女性調査官。

マイケルコースのトートを提げて、石原さとみにしてるけど、背伸びし過ぎで似合いませんね。

申し訳ないけど、これで調査はできるのでしょうか。

 

でも、意外と愛嬌があって、何より物おじしない子ですね。

ちょっと応援したくなります。

社長も孫を見るようで、優しく対応してますね。

ほんとうに最近多いです、若い調査官。

・・・・・

調査開始   

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調査終了

・・・・・

くらら先生、事務所に戻る。

 

「所長、すみません。

非違の指摘を受けました」

「どういう内容?」

 

「インターネットで購入した材料に係る消費税の否認です。

 

調査官の指摘はこうです。

仕入税額控除の適用を受けるためには、帳簿への記載、保存及び請求書等の保存をしなければならない。

帳簿への記載は確認できるが、請求書の保存がない。

よって適用要件を充たしていないので、課税仕入はできない

 

最近は工事の資材をネットで仕入れることが増えてきました。

商品と一緒に請求書が送られてくることもありますが、ほとんどが電子データの情報のみで、紙面の請求書はありません。

 

このような場合、何か救済措置はないのでしょうか」

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「ネットを通じて取引を行った場合には、請求書等そのものが作成・交付されないのが通常です。

このような電子データ以外の保存ができない場合は、やむを得ない理由があるとして、仕入税額控除の適用を受けることができます。

 

会社の帳簿を見せて下さい」

 

・・・数分後

「必要な事項が帳簿に記載されているね。

これなら課税仕入は問題ないよ」

 「・・・・」

 「調査官、間違ってるね」

 

「あれま⁉️

 

  

★当サイトのストーリーは、架空の題材によるフィクションです★