今日の調査立会いは住宅設備機器の卸会社。
創業100年の老舗です。
「うちの商売も年々難しくなってきてね。今回が私の最後の税務調査になるかもしれない」
いきなり何でしょう?
「実はお誘いがあってね。悪い話ではないと思うんだけど、どうしたもんかね」
まさか身売り? M&Aということですか?
好況とは言えないけど、営業利益は確保しています。
何より無借金経営の安定企業ですよね。
あれっ、事務室のウオーターサーバーが
・・・無くなっている。
どこかで聞いたことがあります。
こういう小さなことが、企業身売りの前兆なんだって。
うーむ。
調査官が(来た!)
「おはようございます。
今日はよろしくお願いします」
年配の調査官です、
白髪だからか・・・おじいさんに見えます。
そうですか、再雇用ですか。ということは定年後の人だから60歳を超えてる。
大変ですね。私はそこまで働けるかな?
いや、人生100年時代なんだから、当然現役だよねー。
でも、この人、覇気がなさすぎじゃない?
・・・・・
調査開始
調査終了
・・・・・
くらら先生、事務所に戻る。
「所長、すみません。
非違の指摘を受けました」
「どういう内容?」
「貸倒損失の否認です。
調査官の指摘はこうです。
『税務上の貸倒損失については、担保物がある場合はそれを処分した後でなければ計上できません。
貴社は相手方が所有する土地に抵当権を設定していますので、たとえ劣後であったとしてもその担保物が処分されるまでは貸倒れの処理はできません』
担保物があることを確認していませんでした。
私のミスです」
「税務上の貸倒れの処理については、かなり厳しい取扱いになってるね。
原則的には、担保物の処分後でなければ、全額回収不能かどうかという判断はできないから、処分するまでは貸倒れの処理はできないだろうね」
「それは・・・理解してます」
「いま原則的にはと言ったのは、状況によっては取り扱いが異なるということです。
指摘された売掛債権の資料を見せてください」
・・・数分後
「この貸倒れの処理は問題ないね。
たしかに抵当権の設定はあるけど、抵当権順位は第5順位で、この土地が処分されたとしても、当社に配当の見込みは全くないね。
相手先はほかに資産もないし、支払い能力もないから全額を回収できないのは明らかですね」
「もともと設定は名目的なものだったようです。評価額が低いうえに優先債権が多いですから」
「少し前までは、担保物を処分しなければ貸倒れの処理はダメという取扱いだったけど、今は弾力的に扱うこととされているんだ。
国税庁のホームページにも*1質疑応答事例として載っているよ。
だから、この貸倒損失は全く問題ないということです」
「・・・・」
「調査官、間違ってるね」
「あれま⁉️」
*1:担保物の適正な評価額からみて、その劣後抵当権が名目的なものであり、実質的に全く担保されていないことが明らかである場合には、担保物はないものと取り扱って差し支えありません。